「悲しいのか?」

辺り一面には、MSだった物や何かだったモノの残骸で一杯だった。
あんなに、美しい緑を誇っていた大地が今は紅く。
空を鏡のように映していた湖も、赤くなって。
その真ん中で一人、何かに祈るように手を組んで立っている少年。
「何が…」
開かれた瞳は、気高いアメジスト色で。
笑っている笑顔は天使のようだったけど、此処には不釣り合いだった。
周りは、既に生きていた時の原型を止めていない物ばかり。

「祈っていたみたいだったから」
「違うよ、アスラン。」
何かの残骸を踏みつけながら歩いてきた彼にキラは抱きついて。
乾いた唇に己の唇を重ねて笑った。
無邪気な笑い、子供のように。
「ラクスにね。もうすぐだって…報告してたんだ」
桜色の髪を持つ2人にとって大事な人。もう、この世界にはいない人。
「もうすぐだな。」
優しく髪を手櫛で梳くと、キラはくすぐったそうに身を捩る。
その拍子に何かを踏んだらしく、飛び散った液体でキラの顔は汚れた。

「もぉ…汚いな。」
ウザったそうに、目を細めて顔をしかめるキラ。
それを見ていたアスランは、優しく笑うと耳元で呟いた。
「俺が、綺麗にしてやるよ」
言うや否や、彼を捕まえて器用に舌で顔に付いた何かの液体を舐めとってゆく。
額から瞼へと。
耳から頬を伝って。
唇を何度も撫で、首筋へと舌を這わして。
「苦いな」
ついでに、自分にも付いた血も舐めて苦笑した。
「そうなの?」
首に腕をまわして、ゆっくりと唇を合わせた。
開けられた口の中へと舌を伸ばして、その味を感じる。
広がるのは、いつの日だかに食べた臓物入り鍋の味で。
「まっずぃ。」
綺麗な眉は下降気味になって、舌を出して嫌そう顔をした。
「馬鹿だな、苦いって言ったのに」

笑って、もう一度キラの唇にキスを落とす。
最初は短い間隔で離れていたついばみも、段々と深く長い間隔になっていく。
乾いた音が、水の含んだ音へと変わり…時折見えるのは透明な糸。
ダークレッドの軍服に、キラの指がかかって…それはサイン。
「此処だと汚れるから、駄目だよ」
「なんで?」
「キラが汚い血で、汚れちゃうと後で舐めるの大変だから」
綺麗に笑った顔は、狂喜に満ちていて…それ故に美麗で。

「帰ろうか…キラ?」
「何処へ?」
自分達にはもう帰る場所など無いに。
「何処かへ」
「そうだね。」
ジャスティスへと歩き出したアスランだったが。
いつもは腕を絡ませてくるキラがいない事に気づき後ろを振り向く。
「キラ?」
「世界に、ざまぁみろって笑ってやったんだ」
なのに、彼の頬を伝うのは透明な滴で。
「悲しいのか?」
今日二度目の、その言葉をキラへとかける。
「悲しくなんてないよ。だって、自分の重ねた罪で世界は滅ぶんだから」
世界を破滅へと導く天使は笑った。
そして赤き死神の腕を取り、赤い道を一歩一歩進んでゆく。



悲しくはないけれど、哀れだと思う。
破滅の道を選び取った世界も、自分達も。
悲しくはないけれど。



大切な人がいないこの世界なんていらないんだ…だから壊してあげるんだ。
僕から彼女を奪った世界に、僕と同じ絶望をあげるよ。
全部、全部壊して無くして…世界から何もいなくなって思い知れば良い。
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