ある日のはっぴぃばーすでぃ



メールの送信ボタンをクリックして、アスランは大きくため息をついた。
「・・・もう、こんな時間か。」
デジタル時計に目をやれば、そろそろ日付が変わる時刻。
いつもなら、もうすぐベットに入ろうかという頃なのだが。


定時に仕事を終えた彼が、帰宅するとカガリからのメールがパソコンに届いていた。
「すまない、明日の朝一で使うデータと書類を作ってくれ。」
普段1日かけて、こなす仕事量のデータが共に添付されていて…
さすがのアスランも冗談じゃない、と彼女に抗議の電話をしようとしたのだが。
何度かけても、聞こえるのは留守電サービスの音声だけで。
「ったく…もう、そういうのは早く言えよ。」
しぶしぶ仕事を始めて、終わったらこんな時刻だったという訳だ。

「あーぁ、疲れた…シャワー浴びて寝よ」
しぱしぱする目を擦りながら、アスランはバスルームへと足を進めようとした。
しかし、ドアに手をかけた瞬間


「ピーンポーン。」
静かな部屋に、来客を告げる電子音が響いた。
こんな夜遅くに、誰だろう?と足をドアフォンのディスプレイへと進める。
「はい、どちら様ですか?」
答えると同時に、客人を確認しようとカメラの電源ボタンを押す。
「夜遅くごめん…アスラン。僕、キラなんだけ…」
「っ、キラ??!」
キラが言葉を紡ぎ終わる前に、アスランは急いで部屋のドアを開けた。

そこにいたのは、カメラに映ったその人…キラだった。
「えへへ。」
黒のジャケットに、ご丁寧に白いマフラーまで巻いて彼はそこで笑っていた。
「と、ともかく…中に入れ、キラ。」
わけが解らず困っていたアスランだったが、玄関で待たせていたら
この体の弱い恋人は、風邪を引いてしまうと思いとりあえず家の中へと招く。
「ありがと、おじゃましまーす。」
迷う事無く、居間へのドアへと進んで行くキラの背中を見つつ
アスランは、いつものようにシューズボックスに彼の靴を入れて部屋へと向う。


「で?何でキラはこんな時間に訪ねて来たんだ??」
マフラーとコートを折り畳んで、寛いでいる彼へとアスランは問う。
「えっ…?あぁ、そうか。」
少し吃驚したような表情をした後、キラは困ったように笑って時計を見る。
「キラ?」
「アスラン…僕、ココア飲みたい」

「はぁ?」
質問に返ってきたのは、答えではなく要求で思わず驚きの声が漏れる。
しかし、キラは悪びれる様子も無くニコニコと笑っていて。
「ココア!外寒かったから、冷えちゃった…」
「だから、何で訪ねてきたんだ?」
「いいから、ココア!!」
いつになく真剣に、ココアを欲しがる彼の様子は鬼気迫る物で
釈然としないが、言われた通りにココアを作るため足をキッチンへと運ばせる。


(ごめんね、アスラン。でも明日になれば…)
その背中を見つつ、キラは心の中でそう思うのだった。

「はい、キラの大好きな激甘ココア。」
声色は、少し怒っているようだった。
それでも、僕専用の甘いココアを作ってくれた。
アスランのそんな優しい所が、大好きで…
猫舌な僕の為に、適度にぬるくされたココアを一口含み
「うん。僕の大好きな味だ…」
にっこりと、彼に笑いかけた。

「キラ、一体どうしたんだ?」
今度こそは、明確な答えを貰おうと思ったのだろう。
いつの間にかアスランはキラの横へと席を移動していた。
「それは…」
彼の肩越しに、デジタル時計の秒カウントを探る。
「えっと…」
(後少し、もう少し…4、3、2、1…)


「アスラン、お誕生日おめでとう。」
日付が28日から29日に変わった瞬間、キラは嬉しそうに答える。
「えっ?」
あまりの突然の事に、アスランは目をパチクリさせたままだった。
すると、キラはやっぱり苦笑でもう一度言う。
「だ、か、ら…お誕生日おめでとう、アスラン。」
「…今日、29日だったのか。」
2回目に言われて、やっと言葉の意味に気づいた彼は
手で額を押さえるとやられたといった感じで、小さく笑った。

「やっぱり、アスラン…覚えてなかったんだね。」
向い合った彼は、大きなため息混じりでそう言う。
「仕事が多くて、全然気にしてなかった。」
「忙しくても、僕の誕生日は有給取る君が?」
少し上目使いのアメジストの瞳が、不思議そうにこっちを見ている。
微かに鼻腔をくすぐる、シャンプーの甘い香り。
「それは…」
アスランは、キラの肩を引き寄せると耳元で囁く。
「キラだから、キラの事愛してるから…」
「ア、 アスランっ…」
抱いた肩が、強ばるのが肌を伝わって分かった。
でも気づかない振りをして、冷たい唇を首筋に寄せる。


だって夜に恋人の部屋を訪ねてくる意味を、彼だって知っているだろう。
それに、今日は自分の誕生日で。


「や、ちょっ…」
抵抗するように、髪のぐしゃぐしゃに混ぜる彼なんて気にせず
「っ…」
華を咲かせるごとに、キラの唇から紡がれる音に
アスランは、答えるように優しくまた華を咲かせる。

「、っ…」
「キラ…?」
紡がれる音に、少しの違和感を覚えて顔をあげれば彼は泣いていた。
「キ…っ」
その頬に、手を伸ばそうとした瞬間…
顔にクッションが押し当てられていて言葉はそこで止まってしまった…
「バカ…アスランな、んて大嫌い!」
その言葉と共に、突き飛ばされてコツンと頭を床に打った。
「ったた…なんだよ、キラ?」
見ればキラはソファの端で、自分に背を向けて座っていた。
夜の部屋の空気は冷たくて、でもそれ以上にキラの纏う空気は冷たくて。


「バカ、アスランの馬鹿っ」
鳴き声の混じった、その声が痛い。
「ご、ごめん…キラ。」
そっと伸ばした腕は、今度は拒否されずにキラを抱きしめた。
「嫌い、大嫌い。アスランなんて。」
「ごめん…ごめんね。キラ…」
ただ彼はキラに、謝罪の言葉を述べて強く抱きしめるしかなかった。
しばらく、嫌いとごめんの言葉の応酬が続いた後ノキラがゆっくりと口を開いた。

「僕はアスランの誕生日、何をしようとか…ちゃんと考えてたのに。」
「キラ…」
「なんで、君はすぐそうやって…」
「ごめん…な。」
きっと自分の為に、ずっと前からいろいろと計画をしてくれていたのだろう。
それなのに、自分は…
「もう、いいよ。今日はアスランの誕生日なんだし…」
キラから伸ばされた手は、自分の頬に優しく添えられて
「だから、そんな顔しないで…笑って。」
「あぁ。」
彼の手に自分の手を重ねて、アスランも笑った。


「アスラン…誕生日おめでとう。君が生まれてきてくれて僕は本当に嬉しいんだ。」
「ありがとう、キラ。」
今度は、優しく額に口づけを落す。
「僕も、君の事大好きだよ」
そっと触れるだけの、可愛いキスをキラは彼へと送る。
恥ずかしそうに、耳まで真っ赤に染めた様子は本当に可愛くて
回した腕の強さで、答えを返した。

「さ、もう遅いんだし…寝ようか?」
時計を見れば、もう2時近くで。
寝室に移って、雑談をしているとアスランはそう言った。
「えっ…?」
思わず、キラは驚きの声をあげる。
このままいつもの様に、睦事に流れてしまうと思っていたのだが。
しかしそう言った後に、まるで自分がそれを望んでいたかのようだと思って
なんだか恥ずかしくて、顔を俯かせる。

「キラは、俺に抱かれたかった?」
「違っ…」
「残念、俺は今すぐにでも抱きたいけどね?」
口元だけで笑って、アスランはさっさとベットに入ってしまった。


「アスラン?」
てっきり何かされると思って、身構えていたキラは不思議そうにする。
「誕生日は、まだ始まったばかりだよ?焦らなくてもいいしね。」
下からキラを見上げた彼の顔は、嬉しそうで
「だって明日は1日キラ、一緒にいてくれるんだろう?」
「うん…」
「おいで、キラ。」
ベットへ入ってきた彼をアスランは呼んで抱きしめた。
「それに昔みたいに、話しながら寝るのもいいかな?って。」
「そうだね、アスラン。」



そして2人は、思い出話をしながら幼い頃のように眠るのだった。



あとがき。
なにはともあれ、はっぴーばーすでぃ★アスラン。
ちなみに、この続きも考えていたり。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送
もう少し、暇ができたら作りたいです。