本当の悲しみを知るものは…誰よりも優しい。



キラからの急な通信が入ったのは今から数時間前。
アスランはカガリの護衛でシャトルにいた。
今日は、戦争締結後初の2月14日。
過去の被害地・ユニウスセブンで各国の首脳を集めた慰霊式典が有ったのだ。
「ごめん、今日こっちに来れる?」
「あぁ、カガリを送った後なら行けるが」
「うん、じゃぁ待ってるね。」
そんな、内容の短い通信だった。
どんな用事かは解らない。
けれど、 アスランは出来るだけ急いで彼の住んでいる家へと急いだのだった。


「キラに呼ばれたんだけど?」
呼び鈴を鳴らして、出てきたのはかつての婚約者のラクスだった。
「あら、久しぶりですわね…アスラン。キラなら2階の自分のお部屋にいますわよ」
昔よりも、柔らかく笑って彼女はアスランと挨拶してそう言った。
「そうか、じゃぁ…あがらせてもらうな」
マルキオさんや子供達に挨拶をして、彼は木製の階段を上り部屋の前まで足を進めた。


「キラ、俺だけど…いるか?」
コンコンとノックをして声をかけると、少ししてドアが開かれた。
「ごめん、僕が呼び出したのに…」
「いや、かまわないさ。」
すまなそうに言うキラに、微笑しながらアスランは答える。
「とりあえず、座ってアスラン」
椅子を勧められて、言われた通りに席に座る。
すると、甘い匂いが…ここ最近嗅ぐ事の無かった匂いが。


「チョコレートか?」
血のバレンタインから、そんな匂いを嗅ぐような生活からは遠い生活をしていた。
均衡との取れた部屋、無機質で無臭のコックピット…そんな中での生活。


「アスラン、今日僕が呼んだのはね…」
思いに耽っていた彼を呼び戻したのは、キラだった。
いつの間にか、彼の横に腰を下ろしてあの頃と変わらない微笑みを浮かべていた。
「これは…チョコか?」
そして手渡されたのは、小さなラッピングされた箱。
どうやら、甘い匂いの根源はこれだったらしい。
「うん。アスラン…君にとって今日は喜ぶなんて出来ない辛い日だと思う」
ぽつぽつとでもはっきりとキラは話し始める。
「忘れて、そう言っているんじゃないよ。
ただ、君のバレンタインの思い出がいつまでも悲しいものだと僕は嫌だから」
寂しげに笑う、1年前は敵として戦場で向かい合っていた大切な人。


彼も、いや…彼は俺以上にあの戦いで傷ついてボロボロなのに…


「キラ…」
「アスラン。」
気がつくと彼をぎゅっと、幼い頃のように抱きしめていた。
「ありがとう、キラ」
込み上げてくる思いは沢山有るのに言葉に巧く出来ず、そう言う事しか彼にはできなかった。


「幸せになろうね、もう悲しい思い出をつくらないように」
「あぁ…キラと、一緒に」
小さい頃のように、額をくっ付け合ってキラとアスランは誓う。 幸せになろうと。
過去の悲しい思いでは消す事は出来ないけれど、少しでもそれが軽くなるように。
これから歩いてゆく未来を幸せに生きようと。
争いの無い、永劫の幸せをみんなで築いていこうと…



それなのに、どうして…僕と君はまた此処にいるのだろうね。
刃を向け合って、僕たちは。
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