今日は7月7日。
世間で言う七夕の日。
織姫と彦星が一年に一度の逢瀬を果たすことのできる夜。


「っと、これで最後だな。」
輪飾りや折り紙で作った飾りを、次々と笹へとつけてゆく。
「お疲れ様です、将臣殿。」
「あぁ、しっかし…よくこれだけ作ったもんだよな。」
横に並んだ敦盛に返事を返すと、その視線を天へと上る竹へとくれる。
蒼闇の空に、鮮やかな彩が踊る。
金や銀や赤や青。
風に吹かれて、ひらひらと舞う。


願いを込めた短冊が天へと昇華されて
彼の人を彼女へと導く、天の川に架ける橋をつくる。
人の純粋な願いが、二人の恋人を繋ぐ。
願いはやがて、河に溶けて天原へと届くだろう。

「なんだ、それ?」
空を見たまま、薄い唇で言の葉を紡いだ彼に将臣は不思議そうに聞いた。
すると、紫苑の眼を細めて遥か彼方へと続く空を見た。
「昔、兄上たちが話してくれたのです。」
「経正が?」
「他にも知盛殿や重衡殿や惟盛殿が、いろいろな話をしてくださいました。」
懐かしむような、でも寂しさも混じったその表情。
自然と身体が動いて、細い体躯を抱き込んだ。
「すまない。」
「将臣殿、」
いつもなら、赤く頬を染めて慌てふためく敦盛だったが
今日はその腕の中から、将臣を穏やかな瞳で見ていた。
「大丈夫です。この空はきっとあの時空の空に繋がっていますから。」

この世界の、いろいろな時空の空は天原に繋がっている。
願いや想いは、きっと届くから。

「なぁ、お前は短冊にどんな願いを書いたんだ?」
そのまま彼を抱きしめたまま、一番上に結ばれたそれへと手を伸ばす。
将臣殿、と抗議の声が腕の中からあがったが綺麗に無視して手に取った。


「敦盛。」
頬を今度こそ真っ赤に染めて、胸に埋まった恋人の名を呼ぶ。
その手に握られた紫色の短冊には、流れるような綺麗な字で記されていた。
そのただ一言が。

『将臣殿に沢山の幸せを』

恥ずかしいのか、なかなか顔をあげてくれない彼に苦笑すると
将臣は自分のポケットから、一枚の短冊を出した。
「敦盛、ほらこれ見てみろよ。」
おずおずと顔をあげた彼に、その短冊を渡す。
暫くの間、そしてその後に。
「おいおい、やっと顔上げたと思ったのにまた埋めるなよ。」
耳まで真っ赤にして、胸に顔を押し付けた敦盛を笑う。
敦盛が握ったままの短冊には、お世辞にも綺麗とは言えない字で

『敦盛が幸せであるように』

そう書かれていた。

「俺たち、考えることは一緒みたいだな。」
「将臣殿?」
彼の手に握られた青色の短冊を奪う。
そして自身が握っていた紫の短冊と一緒に ポケットへと放り込んだ。
不思議そうにしている敦盛に、今度は反対のポケットからペンと短冊を出す。
『二人で幸せになろう』

そして不恰好だけど、想いを込めた字でそう記した。
「ま、さおみどのっ…」
「一緒に幸せになろうぜ、敦盛。」
驚きで見上げた彼の額に、優しい口づけを落とす。
願いは、強い思いだから。
強い願いは、誓いへとカタチを変えて…
遠き時空の大切な人たちへと、いつか届くと信じてる。


俺たちは、幸せになる。
この世界で、君と一緒に。
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