それを見つけたのは、偶然だったのだと思う。
ある冬の日、私はそれを見つけた。


閉じ込め籠姫、確信編



「ただいま。」
今日は週に一度、市が立つ日だからと朝も早くから家を出た望美。
日がやっと上に上がった頃、両手に野菜を抱えて帰ってくれば
いつも帰ってくる、おかえりなさいという返事は無かった。
「弁慶さん?」
荷物を土間に降ろして、彼がいつもいる部屋を覗いても
あの暖かい黄金色の髪を見つける事は叶わず、ふぅっとため息を吐いた。

『折角、美味しそうなお団子買ってきたのにな』

土間に戻って、潰れないように一番上に置かれた包みを開けば 美味しそうな餡団子が、2つ。
帰りがけに、二人でおやつに食べようと買ったモノだ。
人の多い市の中を歩いた所為か、望美は小腹が空いていた。
でも二人で一緒に食べる事に意味が有るわけで・・・

「書き置きも無いし、直ぐに戻ってくるよね」

囲炉裏の側に餡団子を置き、ふと思考を巡らせれば
昨日取り込んで、そのままにしておいた洗濯物が有る事を思い出す。
帰ってくるまでに片付けておこう、そう考えて望美は腰を上げた。


洗濯物が放置してある部屋の手前、つまりは客間。
そこに一枚の黒い布が落ちていた。
見覚えが有るな、とふと手に取ればそれは・・・
「これ、弁慶さんの袈裟だよね?」
まだ自分が源氏の神子として、戦陣を巡っていた時
源氏の軍師として、また八葉として自分と共にあった弁慶の被っていたもの。
平和が訪れてからは、見る事の無かったそれ。

どうして此処に有るのだろうか?
そんな疑問が頭に過ったけれど、それ以上に望美の頭を占めたのは
『これを被ってみたい』という想いだった。
そう、前々から袈裟ってどんな感じなのか気になっていたし
何よりも、自分の好きな相手が身に付けていた物。
丁度帰ってきてお帰り、というその一言が聞けなかった事の寂しさも有った。

ゆっくりと袈裟を広げると、ふわりとそれを被る。
急に視界が狭くなって、布の重さを感じる。
あぁ、これが弁慶さんが見てきた世界なんだなと思い
それを共感出来ているという事に、嬉しさを感じて
ぎゅっと、袈裟を抱え込むようにして小さくなった。

日が当たっていた所為か、ちょうどよい位に暖かくて
ツンと鼻を掠めた薬草の匂いから、弁慶を感じて
まるで弁慶さんに、抱きしめたれているような感じだと
嬉しそうに、彼の人の名前を口にした。


「弁慶さん・・・」

「なんですか?」
「・・・っつ!!!」

独り言の筈なのに、返事が戻ってきて
驚いて視線をあげれば、顎に指を当てて楽しそうに笑っている彼の姿。
その笑みがとても、怖いくらいに笑顔なのはきっと気のせいじゃない。

「望美さん。」
返事を待たずして、一歩一歩と彼女の元へと足を進める弁慶。
本能で危険を感じた望美は、じりじりと後退するが・・・
手に触れたのは、行き止まりの壁で。
やばいと思って他方へ逃げようと、腰をあげようとした瞬間。

「何処へ行くんですか」
だん、という音が耳元でして視線を巡らせれば
彼の両手によって作られた小さな檻に、自分は閉じ込められていた。
「いえ、何処にも行きませんけど・・・べ、弁慶さんお帰りなさい。」
話題を逸らそうと、なんとか笑顔で答えを返すが
「えぇ、ただいま。ところで何をしていたんですか?」
彼がその策に乗る筈も無く、一番聞かれたくない事をずばっと口にした。
口を金魚のようにパクパクと、動かし何も言えない望美。

まさか、寂しかったから袈裟を被ってみたら弁慶さんに抱きしめられてるみたいで
嬉しくてずっとあんな事してたなんて、言えるわけがない。
そんな事を言ったら、恥ずかしくて死んでしまう。

「まぁ、いいですよ。」
至極楽しそうな声が、耳元で聞こえたかと思うと
檻を作っていた腕が急に、望美の背中に回されて
引き寄せされるように、弁慶の腕の中に望美は落ちた。
日の暖かさとは違う、人間の体温の暖かさ。
摘んだばかりの青々しい薬草の匂い。
頬をくすぐった、稲穂のように美しい黄金の髪。
あぁ、弁慶さんに抱きしめられているんだと心の底から感じた。
寂しい想いが、昇華されて満たされてゆく。


望美さん、と名前を呼ばれて顔を上げれば
額、瞼、鼻筋、頬、そして
「っん・・・」
唇にふる、口づけ。
何れも優しくて、暖かくて。
「弁慶さん。」
微睡んだ様な声で、彼の名前を呼べば

「本物の方が、何十倍もいいでしょう?」
林檎のように真っ赤に顔を染めた彼女に、楽しそうに笑って
がじりと、耳を嚼んだ。


まさか、自分の袈裟に焼きもちをやくなんて。



弁慶さん、お誕生日おめでとうございます。
全然誕生日には、関係無いです。
すみません・・・

ほのぼので終わる筈が、弁慶さんがちょっと黒い。
私は耳を齧ったり、嚼ませるのが好きみたいです。
だって、それって独占欲丸出し(笑)
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