欠月


さっぱりした、と風呂からあがった知盛は生乾きの髪のままで
彼女がいるであろうリビングへと向かう。
驚かせてやろうと、ゆっくり開けたリビングのドア。
冷たい、まだ春になりきれていない風が頬を掠った。
彼女は、望美は窓を開けて月を見ていた。
風に踊る紫苑の髪。
月明かりに照らされた身体。

あぁ、これが弟の言っていた・・・

「十六夜の君、か。」
「知盛。」
ふっと声を漏らせば、驚いたように振り返った望美。
その瞳には、困惑の色を浮かべて・・・
「その呼び名は嫌いか、十六夜の君?」
窓際まで近づいて、夜風で冷たくなった身体を抱く。
はっ、と息をのむ音が静かに響いて

「どうしてその名を?」
隠しきれない困惑。
「重衝が、昔そんな事を言っていた。」
長い髪を風に遊ばせ、柔らかな月光りを纏った美しい天女。
「実際、お前は神子なんだろ?対して変わりないと思うが」
くっと笑って、髪に口づけた。

十六夜の君、それは前の時空で彼の実弟である
重衡が、自分を呼んだ名前。
ちくりと、胸を締めつけるのは
その次元で知盛を助ける事ができなかったからなのか。
それとも銀を思い出すからなのか…

「男の腕の中で、違う男を思うとは十六夜の君はつれない方だ。」
飛ばしていた意識を戻せば、至近距離に知盛の顔。
風呂あがりの所為か、一層艶っぽく見える表情に
頬が赤く染まってしまう。
「ご、めんなさい…」
素直に謝れば、まぁいいさと笑った。
「お前が求めたのは、今世の知盛だろ?」
「そうだよ、貴方が好き…だよ。」
不意に唇をなぞった指の所為で、言葉が震えた。
恥ずかしい筈なのに、求めてしまいそうになる。
すっかり自分は、彼に魅了されてしまっている。

「好きね、それならばもっと求めてくれてもいいけどな。」
窓際にかけられた腕。
此処は地上13階の部屋で。
逃げ場は無い。
にやりと笑って、触れられそうになった唇に
きゅっと目を瞑れば
頬に落ちた暖かい唇。

「可愛いな、十六夜の君は。」
こんなに赤くなって、と耳をくすぐる甘い吐息。
ひゃっ、という色気の無い声にまた彼はくっと笑う。

翻弄されてばかりだ。

熱の残る頬に手を当てて
「知盛、からかうのはやめてよ…」
恨みがましく視線をあげれば、不敵な笑みのまま。
からかってなどいないさ、と
返事を許さないとばかりに塞がれた唇。
逃げようと必死にもがくけれど
しっかりと大きな掌で頭を固定されて、逃げられない。
口腔を這う舌の感触が、熱をあげる。
呼吸など忘れてしまう程、夢中になる。

互いを結んだ銀の糸が途切れると
それと同時に、望美も彼の肩へと寄りかかる。
「……、かげんし、ぁさい…よ。」
絶え絶えの息で、文句を並べる。
「加減はしたつもりだかな。」
楽しそうに紫苑色の髪を、梳く知盛の長い指。
何度も何度も、引いては返す波のよう。

「十六夜月は、望月に少し足らぬ月。」
紡ぎだした口調は、いつになく真剣で。
そのまま耳を傾ける。
「お前が十六夜の君ならば、欠けた部分は俺が補うさ。」
見上げた視線に、かち合ったのは深い紫。
頬に添えられた綺麗な指に手を重ねた。

「だから。」
口腔へと押し込むように告げられた。
「俺の欠けた部分を、お前が満たしてくれ。」

瞼を閉じて、それを受け止めた。

貴方で満ちる、十六夜の月。 





知盛EDを迎える、ということは
八葉・白龍・朔・銀のEDを見たということ。
いつも一緒で、大切にしてくれた人を捨ててまで
この人を選んだという事。
たくさんの時空を駆けた、ねじ曲げた事。
それが望美が満月になり得ない理由。
ならば、それを知盛が埋める。
彼は、なんだかんだ言って一番大人だと思います。


私は、私は貴方が欲しかっただけ。
06/05/07 up
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