望んでいたのは、こんな結末じゃなかったのに。
何処で、一体何所で狂ってしまったんだ…この歯車は。



海へと落ちてゆく、銀の人を俺はただ見ているしかなかった。
最後にあの人は、あの笑顔で。
俺が嫌いだと泣いた笑みを浮かべて。
波の下の都へと、下っていった。

「に、うえっ!!」
叫びたい衝動を、着物の袂をぎゅっと握りしめて押さえる。
動揺しては、駄目なんだ。
自分は仮とはいえ、大将を任されている身で。
いくら、あの人が自分の大切な人でも…
俺は、源氏で。
あの人は、平氏で。

勝ったのに、突き上げてくる衝動を抑えるのに必死で。
俯いた自分に、周りの兵士は喜びのあまりに感極まったのかと
勘違いをしているらしく 自分の名を、褒め称えるように連呼している。
九郎殿、と。



すっと顔を上げて、底見えぬ蒼を見る。
何も残さずに、あの人は行ってしまったのか…
波はただ、白い飛沫を舟底に返すのみで。
せめて、なにか残してくれれば抱きしめてすがっていれたのに。
最後の最後まで、厳しくて優しい人。

九郎と、自分の数少ない友人に名を呼ばれて振り向けば
滅多に表情を変えぬ男が、驚きで目を見開き
「終わりました。」
静かに目を伏せて、そう告げた。



「平家は滅ぼした、皆の者引き上げるぞ!!」
勝利の声を、一体に広がる舟団に聞こえるようにとあげる。
次々と船に掲げられる白い旗が、蒼い海を彩る。
赤い旗と、流された血は暗い底へと消えてゆく。

急にくらりと、視界がダブって片膝を付けば
弁慶が心配そうに、顔をのぞき込んだ。
ただ何も言わずに、赤に染まった自分の手を握りしめて…
なぁ、弁慶と声を発すれば
なんですか?といつものように、柔和な声と表情。


「波間の下に都は、本当にあるんだろうか?」


そう問うた自分。
返らぬ返事と、何か言いたげに震えた唇。
お願いだ、いつものように笑って言ってくれ…
そんな非現実的なモノは、決して無いのだと。



誰か俺を責めてくれよ、立ち上がれなくなるくらいまで。


望んだ結果じゃなかった。
でもこれが現実だ、俺が選んだ道だ。

あの日に、貴方と別れた日に必ず来るとわかっていた日。
未練がましい俺を、誰か…



殺して下さい。



大河設定の知九が、大好物です。
九郎は肉親の愛情に飢えた子なんだと思います。


>貴方を殺す覚悟など、出来るはず無かった。

2006/04/30 blog up…2006/06/10 site up
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