「駄目です、私に触れては」
そっと伸ばされた指を怖がるように、後ずさる。
きゅっと瞑られた瞳。
全身で、拒絶をする…


「敦盛。」
彼が一歩下がった分、知盛は一歩前へ進み出る。
再度指を頬へと滑らそうと、伸ばすが
首を横に振りながら、紫苑の眼に滴を溜めて懇願する。
お願いです、それだけは許して…と。

何に脅えているのか?
何を許すのか、知盛にはわからなかった。
ただ目の前で、肩を震わす従兄弟。
記憶の中で、彼はいつもはにかんで笑い
好いています、と恥ずかしそうに胸に額を寄せていた。

「俺に飽いたのか?」
ぽつりとそう呟けば、大きな瞳をさらに見開き
違う、と首を横に振りながら答える。
「ならば、なぜだ?」
壁際まで追い詰めて、もう逃げられないようにと腕で檻を作る。
縫うように視線で、射抜けば彼は震える声で言う。
「私は穢れた怨霊です…触れれば知盛殿も穢れてしまう。」
一瞬間が開いて、クッと知盛は喉で笑う。

なんだ、そんな事を気にしていたのか?
馬鹿馬鹿しいにも程がある。


『穢れる、俺がか?』


そして徐に震える腕を引いて、腕の中へと敦盛を抱きこんだ。
「知盛殿っ、駄目です…私は穢」
抵抗の言葉は、最後まで紡がれる事無く
残りは知盛の口腔へと、消えた。
歯列を撫で、息すら漏れぬように舌で翻弄すれば
苦しそうに、抵抗して胸を叩く敦盛。
だがそんなの構い無しに、酸欠で意識が飛ぶ寸前まで
知盛は、彼を離す事無く口腔で遊ぶ。


「戦という血塗られた場所を生きる俺が、穢れるわけなかろう?」
意識を朦朧とさせて、胸にしな垂れる敦盛にそう彼は笑う。
「お前は清いさ、敦盛。穢れてしまったと、胸を痛める心を持つのだから」
「っも、もりどの。」
無意識に伸ばした敦盛の手は、ぎゅっと彼に握り締められる。


「俺は、そんな心など忘れたさ。」


敦盛さんは、穢れてなんていないと思う。
本当に穢れているモノは、そんなこと言わないと思う。
二人とも、気高き人だと私は思います。


>それは必要だった、忘却。

2006/04/30 blog up…2006/06/10 site up
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